ツバメの便り

ポエムの島、沖島

音楽の島。

島、それは息づくポエム。

僕がここに来るのは二度目だが、自然と浮かぶこの言葉。何故だかは分かっている。この島は、別世界、別時間だからだ。ここでは必要最小限の空間の中で、全要素が響き合っている。まるでポエム(詩)の中にいるように。そして風が吹けば、幾多の道具やモノが、チリンカラン、ガラガラと斉唱し、島を包み込む和やかな旋律を生み出す。

まるで蜃気楼のように琵琶湖に姿を見せる沖島。このミュージカルな島が浮かぶ湖の名も、楽器の琵琶の形に由来する。琵琶は、詩・音楽の女神であり、川・海・流れるもの全ての守護神である弁財天の楽器である。沖島の高台にも、弁天様が祀られている。

同じく琵琶に名前が由来する果物の枇杷も、沖島には多く見られる。全て不思議と繋がっているようだ。

400万年の昔から存在する琵琶湖は、世界最古の湖の一つ。そして日本の幾千もの島々のうち400余りの有人島の中でも、沖島は琵琶湖唯一の有人島(人口約280人)であり、日本唯一の淡水に浮かぶ有人島なのだ。

この島では、恵み深き大地との昔からの繋がり、それを守る必要性を、他地域よりも大切にしているのが分かる。沖島は漁師の島であり、多くの家で家庭菜園をしている。だが、大半の人が島の産物で自給する、このコミュニティーにとっての未来とは何なのだろうか?この島を知るとそんな疑問を感じる。住人の過半数は高齢者で、数少ない若者も水平線の向こうに引き寄せられているようだ。それもそのはず、島自体は小さいが、見渡す限り水平線なのだから…!

それでも、この島に暮らせる幸運を感じ、島の自活に熱意を燃やす人もいる。島が息づいていくことを願い、未来を想像する人々。その一人は僕らの友人、奥村ひとみさん。島出身の彼女は、湖畔の光が差し込む灯台のようなカフェ&ギャラリー「汀の精(みずのせい)」を経営している。この場所は、ほぼ時を超えたように世の果てにそっと置かれ、月の美しさと湖面に映るその光に酔いしれるには最高の避難小屋だ。ここでは、ひとみさん自身の天然繊維オリジナル製品、地域のアーティストや写真家の作品を展示すると共に、僕らのようなミュージシャンを迎えコンサートが開かれることもある。寒い時には薪ストーブを囲んで暖をとることができ、その炎の姿が空気中に反映していくように、体だけでなく魂も温めてくれる。沖島で創作スペースを提供してくれたのはひとみさんだ。彼女とその他数人のメンバーで、漁業以外からなる特産品の開発に現在とりかかっている。また彼女らは島のその他の問題、特に廃棄物やゴミ分別の問題に取り組み、解決策を模索している。ただ、平均年齢が70歳を超える沖島で、お年寄り達への尊敬が第一である中、物事を変えていくのは容易ではない。

「汀の精(みずのせい)」

Vision / ヴィジョン

洋子と沖島に到着したのは満月の日で、島ではなんと伊勢大神楽の「獅子舞」を迎えていた。神楽師一行が各家庭を訪れ、玄関口、それから家の中で、剣の獅子舞を奉納する。ただのお祭り騒ぎではない。元来、伊勢大神宮に参拝できない者の代わりお札を配布してまわる神楽師たちは、各家々のお祓いをし、豊穣を祈る。沖島に住む人達が大切にしている、特別な敬意を払って迎える時間なのだ、と僕は感じた。

偶然は存在しないから、満月の日に到着してこのような儀式に立ち会えたことの意味が僕の中で響いた。僕らはここに創作レジダンスをしに来たのは、母なる大地に耳を傾けるプロジェクト【蒼い山】のため。そしたらなんと僕らは、見えざるものと繋がる太古昔のこの儀式によって呼び起こされるかのように、母なる大地がささやく大事な記憶の立会人となったのだ。この言葉を書き綴っている今、採られた魚の犠牲に感謝する、沖島港前の石碑「魚介類供養塔」を思い返している。

僕らがコンサートを開いた、同市内の山頂にある「観音正寺」というお寺にも、創設にまつわる伝説で魚の犠牲について似たようなエピソードがある。この素晴らしい、輝きに溢れるお寺と、白檀の大木で作られた観音像については別ページで綴っているので、読んでみてほしい。​​http://lesmontagnesbleues.com/au-temple-des-sirenes/

たっぷりご馳走をいただいたこの沖島での一日、木が生い茂り光が差し込む山の頂きを散策した後に、夜が来て、月が湖を照らし、営業終了後のひとみさんのカフェに僕はいそいそと避難してこの「Sur l’île / 島の上」という曲を書いた。近々音源をアップするが、その前に歌詞の一部を紹介したい。

沖島でのコンサートの様子

 島の上に、朝を切り開く彼らはやってきた
 ちりんからん、いくつもの波、幾千もの夢
 それは満月の日、彼らは澄んだ剣と銀を持ち、
 僕らを湖へと引き寄せる網を、全て切り裂く

No Comments

    Leave a Reply