このビデオで洋子が朗読している詩は、僕が撮影前々日まで書いていた「樹の年輪」を主題にした曲の訳と、撮影前日に書いたこの「蝶と白太」の訳の一部を合わせたものです。「蝶と白太」の全編は、後ほど時間をかけて訳します。
生い茂る樹
木霊する年輪に宿るのは
柔らかな白太(シラタ)の襞(ヒダ)に
形を灯す光たちと
響き合う歳月の記憶。
年輪よ、
僕らのイノチと同じだね。
愛の蜜は崖っぷちまで溢れ出し
その輪は常に拡がってゆく。
夜を舞う蝶々は、その羽を焦がす。
永遠の彼方
静かな眠りの彼方
愛の彼方にでさえ
世界が花咲くことを願って。
年輪に宿る蝶々たち、
光を忘れることはない。
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奈良より
奈良でアーティスト・イン・レジデンスができること、その滞在先が書家の友人・桃蹊 (とうけい)さんが営む旅館であることは、この冒険的な[蒼い山]プロジェクトにとってかけがえのない幸運でした。この宿には「ご縁」の意味が感じらます。ここでは、人や物事を追いかけない。つまり育むべきご縁は育み、そうでないものはそっとしておく術を学ぶ、そんなシンプルなこと。仏の地·奈良の中心地にあり、「全てが因果関係にある」というビジョンが、桃蹊さんには浸透しているように思います。
感性が鋭い人であれば、この旅館に着くなり感じ取れるでしょう。場所に染み込まれた遠い記憶のような、空気に漂うような、二つの香りを…。
それは「木」と「墨」の香りです。
「木」はこの地域の生活の中心にあります。家やお寺を建てるための木、彫刻にする木。そして「墨」は、日常のもの、必要不可欠な呼吸のようなもの。木々や森を愛し、インクの細い線で歌(シャンソン)を書き綴る僕。尚美さんと僕を繋ぐのは、これらの要素なのです。だから、奈良に来て「木」をテーマに曲を「書く」べきた、という明快なビジョンがありました。
ただ創作には随分苦労し、曲が聴こえてくるよう拝んでいました。そして奈良在住の才あるパーカッショニスト、スティーブ・エトウさんとの撮影予定日の前日…、曲は降りてきたのです。目の前に現れたイメージの力と、簡素で深い音楽性に捉えられ、 一気に、ほんの数分で書き上げました。迷うことなく翌日にライヴ撮影。まだ夜が暗い、蝋燭の灯が夢を照らしていたような時代に、遠い時空・異世界へダイブする。この曲はそんな感じのものです。
その約一ヶ月前、奈良市に近い田舎の、真っ暗な夜道で車を停めたところ、一匹の「papillon de nuit (夜の蝶)」、巨大で真っ白な蛾を、一瞬ですが眼にしました。この曲に息を吹き込んだのは、この夜の蝶でしょう。
この曲は、桃蹊さんのライヴ・ドローイングと同時に録音・撮影することにしました。「杜 (もり)」という漢字は、神社を囲む木立や御神木、神の居森、を指します。
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創作旅行記プロジェクト [Les Montagnes Bleues/蒼い山]